世界難民デー

6月20日は世界難民デーである。そのことはキャンプの難民達も当然知っている。声高に彼らの現状を伝えたいところだが、彼らが抗議活動を続ける場所は2国間のノーマンズランドである。ほとんど誰もいない場所で、空しい叫びを上げ続けている。それを見るものがあるとすれば、国境警察かヨルダン・イラク国境を通過するトラックのドライバーくらいだろう。


「イラクへのキャンプ移転決定に対するハンガーストライキ」


このキャンプは非常に複雑な経緯を経てできたものである。イランで生活していたクルド人である彼らは民族の独立を求めたがイランで迫害を受け、イランの国境地帯からイラクへと移ってきた。時はサダム政権時である。この時くしくもイラン・イラク戦争が始まり、イランで反体制派であったクルド人難民はイランから逃れてきた後、今度はイラク政府に取り込まれ、一部はバアス党の諜報組織で活動し、当時のサダム政権が遂行するイラクのクルド人弾圧に加担した者もあった。同じクルド人でありながら国境に隔たれたために相反する立場に置かれてしまったのである。

ＵＮＨＣＲはこのノーマンズランドのキャンプが2国間の国境間に位置するため、支援の手が届きにくいという理由で、北イラクにあるキャンプへの併合を提案していたが、かつてここでバアス党政権下でクルド人弾圧に手を貸したもの達は今度は自分が殺されるかもしれないという恐怖心から自分達が北イラクへ併合されることをずっと拒んできた。北イラクへの移住を拒否し続け、彼らの国境間での生活は4年以上経った。

しかし、先日イラク政府から突如、このキャンプを閉鎖するようにに命令が下された。理由はすべてはっきりしていないが、このキャンプがイラク・ヨルダン国境間の軍事緩衝地帯という非常にデリケートな場所に位置していたこと、また支援の手が届きにくいくいということが理由であるという。しかし多分に政治的な決断によるところも大きいだろうる。イラクにおける難民キャンプは、戦争で住みかを失ったイラク人難民のほかにも、イラクに隣接するシリア、トルコ、イランから逃れてきたクルド人たちの難民キャンプが多く存在する。いずれも、もといた国で迫害を受けたもの達で、弾圧に対抗し過激な武装闘争を行ってきたグループも中には存在する。そのため、もといた国からはお尋ね者として常に追われる立場である。キャンプは軍事キャンプにのようにみなされ、捜索がおこなわれることや、そのキャンプが危険であるとみなされれば、強制移動され、厳しい監視下に置かれることもある。またキャンプの難民は女性と子どもでその多くが構成されているが、急病人が出ても、患者の搬送や、医師の訪問などの医療支援活動が麻痺することもある。このキャンプでは今年の1月に3人の急病人を受け入れていこう、ヨルダンの病院への搬送許可は出ていない。尿道炎や、肝炎の子どもや重い精神疾患に罹っている老女などが治療を必要としている。イラクへ搬送することは比較的容易であるが、イラク国内の病院では十分な治療が行えない。最低限の庇護が行われているとはとても言い難い。


最終撤去期限が今月末、あと10日ほどである。期限がくれば、キャンプは強制撤去されイラク・アンバール県に位置するパレス地難民キャンプへ併合されることになるだろう。彼らは現在のキャンプに来る前もこの県に位置する、アルターシュキャンプで難民生活を送っていた。しかしイラク戦争後に治安が極度に悪化しここから逃げてきた。それが再びアンバール県のキャンプへ戻される格好となるのである。キャンプ移転後の生活に不安を覚える彼らは移転を断固拒否しハンストを継続する意向だ。